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うみねこ通信 No.323 令和8年5月号

糖尿病患者の災害時の備え

糖尿病内分泌内科部長 奥山 文

2011年3月11日に発生した東日本大震災から15年経ちました。時の経過と共に危機感が薄れがちですが、2025年12月8日の青森県東方沖を震源とする地震により災害への備えの重要性を再認識したところです。特に糖尿病のある方は、食料・生活用品・衛生用品などの備蓄品に加えて、糖尿病治療継続に必要な物を意識して準備しておかなくてはなりません。

日本糖尿病協会では、「災害時1,2,3シート」というシートが作成されました。大きな災害が発生して「いざ避難」となったときに、糖尿病患者さんなら最低限これだけは持って避難してほしい、というものが記載されています。ここに書かれているものを持って逃げれば、災害救助が及ばない最初の数日間を自分でしのぐことができます。①薬(最低3日分)、②脱水予防のための水、低血糖対策の補食・ブドウ糖、そして③糖尿病連携手帳、お薬手帳です。東日本大震災では、病院や調剤薬局も被災しました。当時の災害派遣チームに行われた調査結果によりますと、避難所に薬物を持参できなかった方のうち、半数以上は糖尿病連携手帳やお薬手帳によって処方内容を知ることができ、スムーズな処方につながったようです。お薬手帳をスマートフォンのカメラで撮影しておくのも得策でしょう。
災害時は糖尿病治療の3本柱(薬物療法、食事療法、運動療法)、それぞれで工夫が必要となります。

<薬物療法>
食事が準備できる場合は、治療を継続しましょう。経口摂取が不十分な時は、低血糖を起こしやすい内服薬(スルホニル尿素薬、速効型インスリン分泌促進薬)やインスリン注射は減量や中止が検討されます。特にインスリンの中でも超速効型・速効型・配合型は食事量に応じて減量しましょう。また、ビグアナイド薬やSGLT2阻害薬は、経口摂取が十分ではない時はそれぞれ乳酸アシドーシスや正常血糖アシドーシス(どちらも血液が酸性に傾く病態)という危険な状態に陥るリスクが高まりますので休薬しましょう。

<食事療法>
十分な食事が準備できない場合は、食事の不足分は自分の体に蓄えた栄養分(グリコーゲン、脂肪など)で補っていますので水が飲めれば急場はしのげます。食事が準備できたとしても、パン、おにぎり、カップラーメンやお菓子など炭水化物を多く含む食品がどうしても多くなってしまいます。これらは重要なエネルギー源ですが、血糖を上げる食品でもあります。食事の中に蛋白質を含む食品(肉類、卵類や乳製品類等)や野菜類がある場合は、それらを先にゆっくりと噛んで食べ、炭水化物を後に食べることで血糖の急激な上昇を抑えることができます。同時に満腹感も得られます。

<運動療法>
避難所では地べたに座ることが多く、腰痛や肩こりを引き起こしやすくなります。また、車内で過ごす方はエコノミークラス症候群のリスクが高まります。意識的に深呼吸をして胸を大きく開いて肩を回す、膝の屈伸、足首回し、ラジオ体操など狭い場所でもできる運動を心がけましょう。

その他には、被災地での片付け等でけがをすると小さな傷から感染症を起こしたり、軽い風邪から肺炎を引き起こしたり、神経障害のある方はカイロによる低温やけどを起こしたりとけがや感染予防にも注意が必要です。
普段と違う環境でどう過ごすか。日頃から自分の飲んでいる薬に興味を持ち、糖尿病のコントロールを良好に保つことが災害を無事に乗り切るために今できることだと考えます。
 

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