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うみねこ通信 No.314 令和7年8月号
下肢慢性動脈閉塞症に対する運動療法
心臓血管外科部長 小野 裕逸
- 下肢慢性動脈閉塞症は、足の動脈が動脈硬化などによって狭くなったり詰まったりすることで血流が悪くなる病気です。進行すると歩行時の足の痛みやしびれが生じる間歇性跛行や、安静時にも痛みが出現したり、潰瘍や壊疽に至ることもあります。このような下肢慢性動脈閉塞症に対して、運動療法は薬物治療や血管内治療、バイパス手術と並んで重要な治療法のひとつとされています。
- 1.運動療法の方法
- 下肢慢性動脈閉塞症に対する運動療法の中心となるのは、監視下運動療法と在宅運動療法です。
- ① 監視下運動療法
- 医療機関や専門施設で、医師、理学療法士、看護師などの専門家の監視の下で行われます。運動強度や時間などは個々の患者さんの状態に合わせて調整されます。代表的な運動としてトレッドミル運動や自転車エルゴメーターがあります。下肢の痛みが出現するまで歩行し、その後短い休息を挟んで再び歩行を繰り返すという間歇的な運動が基本となります。
- ② 在宅運動療法
- 患者さん自身が自宅や近隣で行う運動療法です。監視下のものと同様に歩行運動が中心となり、痛みが出たら休息し、和らいだら再開するという間歇的な運動を継続します。監視下運動と比べて実施のハードルは低いですが、効果を上げるためには患者さんの自己管理能力とモチベーションが重要となります。活動量計や歩数計などを活用することで、運動量を記録・管理することが推奨されます。
- 2.運動療法の進め方のポイント
- ① ウォーミングアップとクールダウン:運動の前後にはストレッチなどの準備運動を行うようにします。
- ② 適切な靴の選択:足に合った、衝撃吸収性の良い靴を選びます。
- ③ 足の観察:運動後に、足に傷や水疱ができていないかなどを観察します。
- 3.運動療法の効果
- 運動療法には、以下のような様々な効果が期待できます。
- ① 間歇性跛行の改善:最大歩行距離の延長、跛行出現までの時間延長を認めるようになります。これは、運動によって側副血行路(道路の迂回路のようなもの)が発達したり、筋肉の酸素利用効率が改善するためと考えられています
- ② QOL(生活の質)の向上:歩行能力の改善に伴い、日常生活での活動範囲が広がり、精神的な安定にもつながります。
- ③ 心血管イベントリスクの低減:下肢だけでなく、全身の動脈硬化の進行を抑制する効果も期待できます。また、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病の改善にも寄与します。
- ④ その他の効果:筋力や持久力の向上、血管内皮機能の改善、血液粘稠度の低下
- 4.運動療法の問題点
- 運動療法は効果的な治療法ですが、いくつかの問題点も指摘されています。
- ① 監視下運動療法の実施施設が不足している
- ② 患者さんの継続性の維持:効果を実感できるまでに時間がかかるので、途中でやめてしまう人も少なくありません。在宅での場合は、自己管理が難しく、モチベーション維持が課題となります。
- ③ 安全性への配慮:下肢虚血の程度が重度である場合、そもそも運動ができない場合があります。また、運動中の身体への過度の負荷は、症状の悪化や、心血管系の合併症(狭心症、心筋梗塞など)を生じるリスクもゼロではありません。
- ④ 運動に伴う痛み:運動により、一時的に跛行の痛みが生じるため、苦痛を伴うことがありますが、この痛みを乗り越えて継続することが重要です。
- ⑤ 効果の限界:運動療法だけですべての患者さんの症状が劇的に改善するわけではありません。症状の程度や合併症の有無によっては、薬物治療や血行再建術との併用が必要となります。
- 5.まとめ
- 運動療法を安全かつ効果的に行うためには、医師や理学療法士などの専門家による指導のもと、根気強く継続していくことが重要です。また、塩分制限などの食事療法や禁煙といった他の生活習慣病の改善と併せて取り組むことで、より高い治療効果が期待できます。
