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うみねこ通信 No.311 令和7年5月号
老いと発がん
青森労災病院 がん検診センター長 伊神 勲
- 私たち人類は生きるために呼吸をして食事を摂取しています。私たちの体の細胞は約37兆個あり、その全てに酸素と栄養素が運ばれています。体細胞の中で酸素を消費しているのがミトコンドリアです。食事により取り込まれたデンプンや糖など炭水化物、タンパク質、脂肪などは吸収され、分解代謝によりアセチルCoAとなります。アセチルCoAがミトコンドリアの中のクエン酸回路を通る間に水素分子が作られ、次の電子伝達系でこの水素から電子を取り出し、
酸素を利用してアデノシン3リン酸:ATPを合成します。このATPは筋肉を動かしたり、発熱により体温を維持する大切なエネルギー源です。しかし、電子伝達系では時々余分な電子が発生して酸素と結合します。この酸素と結合した電子がペアを組めないと大変不安定になります。ペアではない不対電子は安定になろうと周囲から電子を奪い取り、周囲の物質を酸化させます。この不対電子を持った酸素を活性酸素といいます。
- 細胞内には多くのタンパク質があり、各々一定の役割をもっています。活性酸素は周囲のタンパク質を酸化させ、そのタンパク質を破壊し役割を果たせなくします。また、細胞内の核には遺伝情報を持った遺伝子・DNAがあり、DNAを構成する塩基も酸化させ傷つけます。このようにタンパク質が壊れると細胞は機能が低下し寿命が短くなります。これが細胞の老化です。一方、遺伝子の傷の蓄積がある細胞分裂のミスコピーから、時々発がん遺伝子の引き金が引かれます。私たちは呼吸により酸素を取り入れていますが、その酸素の概ね3 ~ 5 %が活性酸素になるといわれています。ミトコンドリアの中で酸素によりATPという大きなエネルギーを合成していますが、同時に老いと発がんを招いています。
- 地球上のすべての動物は酸素呼吸を行います。人類は哺乳類の中でも寿命が長い部類に入ります。何故なら、体内で発生した活性酸素を消し去る酵素を多く持っているからです。犬や猫の寿命は10年から15年なのはこの酵素が少ないからです。しかし、活性酸素を消す酵素は20代から減少していきます。このために体力の低下と老いが進行します。
- 約30億年前に地球の生物として初めて光合成をおこなったのが藻類のシアノバクテリアです。太陽から燦燦と降りそそぐ紫外線は活性酸素を発生させるため、当時の生命体は水面近くでは生きていけませんでした。シアノバクテリアが光合成を行う色素を身に付けたお陰で、活性酸素から身を守り生物として進化してこられました。植物は危険な紫外線から身を守るために、クロロフィルをはじめフラボノイド、カロテノイド、ベタレイン等の色素を生み出してきました。これら植物色素以外にも、私たちが感じる「苦味」や「渋み」といった多彩なポリフェノールをつくり活性酸素を除去してきました。もちろん、ビタミンC、Eにも強力な活性酸素除去作用があります。
- 私たちの生活では、活性酸素を発生する多くの機会があります。激しい運動、喫煙、過剰なアルコール摂取、ストレス、肥満、不規則な睡眠生活、過剰な紫外線や放射線、排気ガスなどの環境汚染です。活性酸素により惹起される老いと発がんは同じことです。私たちが健康で長寿を全うするために、規則正しい生活と野菜を多く摂りましょう。コーヒーやチョコレートにもポリフェノールが含まれていますが、摂りすぎには注意しましょう。
