作業療法の紹介
中央リハビリテーション部 主任作業療法士 豊田 英司
- 作業療法は病気やケガ、加齢などで日常生活に困難を抱える人が、その人らしい生活を送れるように支援するリハビリテーションの一分野です。作業を通して心身機能の回復や維持を図り、その人らしい生活を送れるよう、生活全体を豊かにすることを目的とします。必ずしも元通りの心と体になることだけが目的ではなく、障害があっても折り合いをつけながら生活することも大切と考えます。
- 「作業」とは一般的に使われる仕事という意味合いとは異なります。これは、人が意味を見出し、目的をもって行うすべての活動を指します。具体的には食事、入浴、着替え、トイレなどの日常生活活動、仕事や家事など生産的活動、趣味やスポーツなどの余暇活動が挙げられます。
- 1.対 象
- 作業療法は幅広い年齢層と疾患を持つ人を対象としています。主な分野として身体障害領域、精神障害領域、発達障害領域、高齢期領域があります。
- 身体障害領域は脳卒中、骨折、脊髄損傷、パーキンソン病、がん、呼吸器疾患、心疾患など身体的な疾患や障害を持つ人が対象です。失われた運動機能や感覚機能の回復を促す訓練だけでなく、生活環境を整える支援も行われます。
- 精神障害領域はうつ病、統合失調症、双極性障害、依存症、発達障害、認知症などの精神的な疾患を持つ人が対象です。活動を通して感情の安定を図り、自己肯定感を高め、社会参加への意欲を引き出します。絵画、陶芸、音楽等の創作活動や、料理、園芸といった生活に密着した活動、就労支援などが行われます。
- 発達障害領域は脳性麻痺、自閉スペクトラム症、注意欠陥・多動性障害、学習障害など、発達に遅れや偏りがみられる子供たちが対象です。遊びを通して協調性やコミュニケーション能力を育み、学習や日常生活に必要なスキルを身につけることを支援します。
- 高齢期領域は認知症や廃用症候群、脳卒中、骨折、がんなど加齢に伴う心身機能の低下を抱える高齢者が対象です。一般的な機能訓練に加え、転倒予防のための環境づくり、調理や掃除などの家事活動の再獲得、趣味活動の継続支援などを通して、可能な限り自立した生活を送れるよう支援します。
- 2.具体的なアプローチ
- ①機能訓練
- 筋力、関節可動域、協調性、バランス、感覚などの基本的な心身機能の回復を目指す訓練です。
- ②生活動作訓練
- 実際の生活場面を想定した食事、着替え、入浴、調理、掃除などを練習します。
- ③環境調整
- 対象者が活動しやすいように、物理的な環境を整えることです。手すりの設置、段差の解消、その人の動作を助ける道具である自助具の選定、福祉用具の選定も重要な役割です。
- ④子どもの発達を支援
- 遊びを通して子供たちの心身の発達を促します。集団活動を通して他者とのかかわりを学ぶ機会も提供します。
- 作業療法の最大の意義は、単なる機能回復を超えて、その人らしい「生きがい」や「役割」を再構築することにあります。治療にはやる気を引き出すような、本人が楽しいと思える活動を取り入れることが重視されます。
- 医療・介護・福祉に限らず、行政や学校、司法などの幅広い分野で行われる作業療法に興味を持っていただければ幸いです。