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うみねこ通信 No.116 平成21年2月号

振動障害

健康診断部長  宮澤 正

☆『振動障害』は金属工業で使用されるグラインダー・チッピングハンマー等、建設工事現場で使用されるコンクリートブレーカー、バイブレーター、インパクトレンチ、ピックドリル、ランマー等、鉱山やトンネル等の掘削作業現場で使用されるさく岩機、林業で使用されるチェンソー、刈払機等の『振動工具』の使用により、腕や手が長期間振動に曝されることにより発生する病気です。

以前は、『白ろう病』の名前で知られていましたが、現在は『振動障害』と呼びます。

『振動障害』の典型的な症状としては、レイノー現象があります。手の指が突然蒼白となり、まるで「白いろうそく」のような状態に変わるので『白ろう病』という名前の由来となっています。手指の血管がケイレン的に収縮し、血液が一時的に流れなくなり、同時に手指の感覚も鈍くなります。

レイノー現象がない場合でも、『振動障害』では「末梢循環障害」、「末梢神経障害」、「骨・関節の運動機能障害」の3つの障害が起こります。このうち、「末梢循環障害」による症状ですが、長期間振動を受けていますと、特に冬の寒い時期には手指が冷たくなり、手指に痛みなどが起こります。「末梢神経障害」の症状では、手指のしびれ、知覚の鈍麻、痛みなどがあります。これは、振動障害にだけに特徴的ではなく、末梢神経障害を起こす多くの疾患でみられます。同様に、「骨・関節系の運動機能障害」についても特徴的な症状はありませんが、肘関節の変形による運動制限や疼痛があり、握力の低下等も起こります。

『振動障害』を診断するためには、
  • ① レイノー現象の確認
  • ② 振動業務の履歴、業務内容、使用器具等の調査
  • ③ 既往歴、けが等の調査、
  • ④ 手の冷え、しびれ、痛み、知覚の鈍麻、握力低下等の症状の調査
  • ⑤ 末梢循環機能検査、末梢神経機能検査、運動機能検査
  • ⑥ 糖尿病、膠原病、胸郭出口症候群、閉塞性血管疾患、頚椎症、血漿タンパクの異常等の検査

以上の様な検査が行われますが、レイノー現象がはっきりしない場合には、様々な理由から診断は容易ではありません。現在、検査の信頼性がもっとも高いとされているのがFSBP*(指局所を冷却して、同時に指の動脈血圧を経時的に測定する方法)です。

1994年にストックホルムで行われた振動障害の国際会議でも推奨された検査法で、西欧ではスタンダードな検査法になっていますが、国内では労災病院の数施設にしか導入されておりません。 『振動障害』の治療には理学療法の他、血管を拡張させて血流を改善する薬剤(ニコチン酸製剤、Ca拮抗剤、循環ホルモン剤、交感神経受容体ブロッカー)、ビタミン製剤(B1、B2、B6、B12、E)、消炎鎮痛剤等が使用されていますが、これといった特効薬はありません。したがって、『振動障害』をおこさせないことが最も重要になります。

『振動障害』の予防のためには、振動工具を使用しないか、すべての振動工具を自動化できれば一番よいのですが、中小企業の多い日本の場合にはなかなか困難です。そこで、作業時間を短くし、振動による影響を少なくすることが考えられています。

旧労働省の行政通達によって、作業時間の管理が次のように決められています。

  • ① 計画的に振動工具を使用しない労働日を設定する。
  • ② 一日の振動作業の最長作業時間の設定(2時間以内)
  • ③ 振動作業の最長一連続時間の設定(10分以内)
  • ④ 振動作業の休止時間の設定(5分以上)

かなり厳しい内容で実際にこの条件が守られているかどうかは、はなはだ疑問です。その他、防護具として防振手袋の着用や防振装置付工具の使用もすすめられます。『振動障害』では、気温、風などの影響が大きいため、作業現場には暖房の整った休憩設備が必要となります。

* FSBP Finger Systolic Blood Pressure:手指収縮期血圧

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