閉じる
HOME
診療科のご案内
当院のご紹介
ご来院の皆様
採用情報
診療科・各部門
各種ご案内


HOME ≫ 各種ご案内 ≫ 広報誌のご案内 ≫ うみねこ通信 ≫ バックナンバー ≫  平成29年2月号

うみねこ通信 No.212 平成29年2月号

腹部大動脈瘤

心臓血管外科部長 小野 裕逸

1.病 態

腹部大動脈は腹部内臓や下肢への血液供給路の通り道であり、言わば1本のパイプです。 成人男性であれば、通常20㎜前後の直径があります。 これが何らかの要因で拡張したものが腹部大動脈瘤であります。 一般には正常径の2倍になって、初めて瘤と表現されます。 原因の多くは動脈硬化性であり9割以上を占めます。 動脈硬化とは動脈が硬いと書いてありますが、動脈硬化の病変は血管が硬いところもあれば、弱く脆い部位もあり、動脈血圧により外側に向かって圧がかかることにより、弱い部位が膨らむことで動脈瘤を形成します。 動脈硬化性以外の要因としては、大動脈解離や感染性動脈瘤などがあげられます。 動脈瘤は、これが存在するだけでは臨床症状はないことがほとんどで、痩せた人であれば腹部拍動性腫瘤として自覚する程度です。 症状が生じるのは破裂や切迫破裂の時で、急激な腹痛・腰痛、ショック症状(顔面蒼白、四肢冷感など)を伴います。 破裂することさえなければ特に問題は生じませんが、いつ何時に破裂が起こるのかがわからないことが大きな心配の種です。


2.治 療

飲み薬で動脈瘤が小さくなることはありません。 治療の目的は破裂の予防、あるいは万が一に破裂した場合の救命を目的とする場合です。 ただし、破裂した場合の生命予後は著しく不良であります。 破裂は、動脈瘤径の大きさに比例して確率が高くなります。 現在では5㎝以上になれば手術を勧められることが多いと思われます。 治療法としては外科手術以外にはありえません。


①開腹による根治手術 : 従来から行われている一般的な手術法です。 大きく開腹する必要があり、手術中の出血、性状の悪い動脈壁に直に人工血管を吻合する技術的な問題、侵襲の大きな手術ゆえに術後の全身状態に影響が強いことが問題点としてあげられますが、動脈瘤の残存もなく、手術で治癒できます。 破裂に対する手術死亡率が数10%にもおよぶのに対し、予防のための手術(待機手術)では、死亡率は1%以下です。 大掛かりな手術であることは確かですので、術前の全身検索(臓器障害の有無などの評価、特に心臓や脳血管に関しての術前検査)はきわめて重要であります。


②ステントグラフト内挿術 : この10年ほど急速に普及してきている術式です。 人工血管を動脈壁に直に縫合するのではなく、バネ(ステント)のついた人工血管を折りたたんだ状態で動脈瘤内に挿入、これをレントゲンで見ながら動脈瘤内で組み立てるというやり方です。 カテーテル治療とは言いますが、下腹部に2か所の皮膚切開を置いた状態で行いますので外科手術には変わりありません。 しかし、大きく開腹する必要がない(いわゆる腹筋の損傷が少ない)ことから、術後の疼痛も少なく、早期回復が得られるという利点があります。 問題点としては、動脈瘤そのものは残存していること、腹部大動脈から多数の枝分かれする小血管があることから、術後に動脈瘤内への血液漏れ(エンドリーク)が残る可能性があるということです。 通常1年ほどでこのエンドリークは消失するものですが、中には追加治療が必要になることもあります。以上から術後の定期的なCT検査による観察が必要であります。


3.治療の選択

開腹による手術、ステングラフト内挿術、いずれのやり方を選択するかは、あくまで動脈瘤の形態や動脈壁性状によります。 また、各患者さん方の全身状態も参考にして決定されます。 そのために必要なのがCT検査であり、これを細かく計測し、全身検索の結果を踏まえて判断することになります。

最終の目的は動脈瘤破裂を防ぐことであり、破裂する前に治療介入することが予後改善のためには重要と言えます。

 

このページの先頭へ