閉じる
HOME
診療科のご案内
当院のご紹介
ご来院の皆様
採用情報
診療科・各部門
各種ご案内


HOME ≫ 各種ご案内 ≫ 広報誌のご案内 ≫ うみねこ通信 ≫ バックナンバー ≫  平成24年10月号

うみねこ通信 No.160 平成24年10月号

末梢性顔面神経麻痺、特にベル麻痺について

神経内科部長 栗原 愛一郎

当院には耳鼻科が有りません。明らかに耳鼻科的な病気や訴えの患者さんが来院した際はインフォメーションで他院耳鼻科の受診を勧めますが、時に訴えや疾患が神経内科と重なる事があり当科で診ることになります。その一つに末梢性顔面神経麻痺が有ります。
 脳から直接出る神経を脳神経といい左右12対有り、その中で主に顔の筋肉を動かす神経で顔面神経と呼ばれるものがあり、それが直接障害された状態が末梢性顔面神経麻痺です。原因は外傷、内科系の病気、耳鼻科疾患、末梢神経疾患など様々ありますが、顔面神経が脳を出る直前で障害される場合も稀にあり脳の病気でもなります。最も多いのはベル麻痺というイギリスの外科医の名前の冠せられた疾患で、末梢性顔面神経麻痺の7割を占めるという耳鼻科からの報告が有りますが神経内科的にはもっと多い印象をうけます。人口10万人当たり年間20人から30人がなり、原因はよく判っていません。最近では口唇にできる水疱の原因となる1型単純ヘルペスウィルスの関与が指摘されています。顔面の筋肉、正確には表情筋ですが(咬んだり顎を動かす筋肉は三叉神経という他の脳神経が関与します)半分麻痺し顔が非対称になるため、顔が曲がったという訴えで受診する人が多く、水が片方の口の脇からこぼれる、洗顔時片方のまぶたがめくれる等と訴える人もいます。それぞれ口を閉じる筋肉や目をつぶる筋肉の麻痺による症状です。麻痺側で額の皺が消失し皺寄せができず、また鼻の脇の皺が浅く唇の端が下がっています。イーッといわせると健側に唇が引っ張られ、口が半分とがらせず口笛が吹けません。顔面神経の一部が涙腺や中耳の筋肉、また味覚も支配しているため麻痺した側で目が乾いたり、稀に音が響く、味がしない等の症状が出ることがあります。目に関しては眼をつぶる筋肉の麻痺で涙を鼻腔に流す管が圧迫され涙がたまりかえって涙目になる場合もあります。麻痺が急に出現しますのでアタッタのではないかと救急外来を受診する人が時々いますが、脳血管障害ではものが二つに見える等の他の神経症状も一緒に出てきますし頻度的にもごく稀です。麻痺は1日長くても3日でピークに達し、8、9割方の患者は3ヶ月以内に完全に治ります。残りの患者では治療に時間がかかったり麻痺が残ったり、ごく稀に口を開けると目が閉じる等、神経再生がうまくいかずに生じる症状が後遺症として新たに出てくる場合があります。治療は副腎皮質ステロイドというホルモン剤を2週間位使用します。治療しなくても7割は治るという報告もあるのですが、発症早期の投与でより早くよくなり、完全に治る率も高まるといわれ、スタンダードな治療法となっています。またビタミンB12製剤も他の末梢神経疾患と同様に投与します。抗ウィルス薬は単独では効果はなく、重症例で副腎皮質ステロイドと併用する場合もありますが、その有用性については一定の結論は出ていません。薬物以外では以前は神経の血流改善を目的に麻酔科で星状神経節ブロックという頸部の奥深くに麻酔剤を注射する方法や、リハ科で電気を使った低周波刺激が行われていましたが、前者では効果を証明した明らかなデータがなく、後者も神経再生時の後遺症を誘発する可能性が指摘され現在は行われていません。リハビリは軽症例では積極的に行わない場合もありますが、リハ科に頼診し1、2週後から顔面のマッサージ、更に顔が動き始めたら自分で動かす練習をしてもらいます。この際、強く動かしすぎると低周波刺激と同様、後遺症を誘発する可能性があり、軽くゆっくり行い、できるだけ目と口は一緒に動かさないようにします。
 顔が曲がったらまずはベル麻痺が疑われます。神経内科や耳鼻科できちんと診てもらって下さい。

このページの先頭へ